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嫌なことは我慢しない「理想的な働き方」をはたらく動物に学ぶ
今回は文筆家の金井真紀さんに、本を書くことの魅力、文筆業の未来について伺いました。
諸岡:金井さんが想像する文筆業の未来というか、理想的な働き方とかっていうのはありますか?
金井:文筆業に限らないかもしれないんですけど。

以前、「はたらく動物と」という本を書いたことがあるんですけど、例えば盲導犬とか、畑を耕す馬とか、鵜飼の鵜とか、人間の近くで働いている動物にはインタビューできないので、その動物と一緒に働いている人たちの話を聞いて回って、それを本にしたんです。その時に動物たちの働き方を見ていて気が付いた事があって。まず、嫌なことを我慢しない。余計な事を思い煩わない。自分の持ってる力を出し惜しみしない。これが働く動物たちのすごいところだなと思って。
諸岡:うん
金井:たまたまなんけど、私が取材したところは、イヤイヤ働いている動物はいなくて。
諸岡:へえ。
金井:中には多分そういう動物もいると思うから、かわいそうなこともあると思うんですけども。たまたま私が取材した動物たちは、すごく嬉しそうに働いてまして。結構、(イヤイヤ働いてるのでは?と)疑って行ったんですが、まあ、嬉しそうだったんですよ。飼い主も、「働いた翌日はすごいいい顔してる」とかいうんですよ、鵜とかね。「鵜飼に出た日の翌朝の鵜は、すごいハツラツとした顔をしとる」とか言って。
諸岡:そうなんだ。
金井:これすごい何度も自分で思い出すんですけど。我慢しないのはまあ大事なことだと思いますけど、同時に出し惜しみしないっていうのは結構すごいなと思って。
諸岡:ああ!
金井:やっぱり人間は人間を見てしまうから、「ちょっとやりすぎ注意かな?」とかあるじゃないですか。「頑張りすぎてる人みたいになったらかっこ悪いかな」とか、そういう無駄な自意識があるんだけど、動物はないんですよ。持っている力を素直にどんどん出して、嬉しそうに働く。もう一個は、余計なこと、未来とかを全然思い煩ってなくて。
諸岡:わあ、そうかぁ。
金井:「仕事なくなったらどうしよう」とか、思ってないですよね、その瞬間はね。「クビになったらどうしよう」とか「いずれ病気になってこの仕事できなくなっちゃうんじゃないか」とか、そんなの考えてるの人間だけで。スゲーと思って、動物!
諸岡:確かに!
金井:で、この質問(文筆業の未来について)をいただいた時に、最初はちょっと悲観的になるんですけど・・・「本なんか誰も買わないよな、これから先」とか思うんですけど、これ(はたらく動物たち)を思い出すとこんなことまた思い煩ってもしょうがないし、出し惜しみしてもしょうがないし、まあやりたくないことをやってもしょうがないから、あの動物たちみたいに行こう!みたいな感じで思います。
諸岡:すごい!働く動物からヒントを得ているなんて。ちなみに、働く動物って聞いて私が最初にイメージしたのが、犬ぞりの犬たち。
金井:やったことあるんですか?
諸岡:はい、スキーで引っ張ってもらって、私はすぐ倒れて、ズルズル引っ張られただけなんですけど・・・。でも、犬達って「なんで転ぶんだよ〜走りたいのに〜!」っていう感じなんですよね。
金井:ああ、嬉しそうなんだ。
諸岡:「たのしー!」って感じで走るんですよね。確かに能力を出し惜しみしないし嫌なことをやってない感じもするし。人間はややこしいですねー。
金井:ややこしいですね。ほんとそれ。

諸岡:本が売れなくなったと言われて久しいですけれども、それでも本を書きたい人もいっぱいいると思うんですよね。本を書くその魅力っていうのはいったい何なんでしょう?
金井:多分、日記を書いても楽しいと思うんですけど。自分だけが見る日記を書いても、
それで整理されたりすることもあるから、それでも十分すごくいいことだと思うんです
けど。でも、本にしたら、思いがけない人が読んだり、目に触れたりして、思いがけない人が思いがけないこと言ってくれるみたいなことは、やっぱりなにか発信したら面白いことになるかなと思うんで。
諸岡:今までもそういう思いがけないフィードバッグはあったんですか?
金井:そうですね、読んでくださった方が、読んでくれる人がいるだけで・・・
金井さん宅の猫:ニャーン!
金井:・・・あの、大丈夫ですか?猫。働かない動物が・・・ちょっと黙らせてきましょうか、最後に。

金井:お待たせしてみました。すみません。
諸岡:ごはんですか?
金井:ごはん。何回食べたんだごはん・・・。
諸岡:いいなぁ、働かない動物と(笑)。途中だったんですけど、本を書くことの・・・。
金井:思いがけないリアクションですよね?ただね、何かそれはどの仕事もあると思うんですよね。だから本を書くことが特別とも思わなくて。どんな仕事でもなんか思いがけないこと、その仕事を見てくれてた人がいたりとかってことは起こると思うから、本が特別じゃないと思うんですけど。本を書いて、見知らぬ人が読んでくれて、感想をくださったりとか、ちょっと想像してないことで面白いですね。
諸岡:働くことって誰かの役に立つとか、社会に貢献しなきゃいけないみたいな気持ちがあることがあると思うんですけど、そういうことって金井さんはお仕事の中にありますか?
金井:なんか、良い世の中になればいいなと思いますけど、まあそのため自分が役に立つかはちょっとよく分からないですけど。うーん。役に立たなきゃいけないと思わないけど、あの、次の世代や、次の次の世代とかに、なるべくマシな社会を渡したいなぁという気持ちはありますけど。

諸岡:いやでも、金井さんの本読んでると、それこそ多様性を面白がることを伝えるって言うのは大変なミッションだと思いますよね。
金井:本自体がなんか役に立っても嬉しいし、そうじゃなくてもやっぱりもう本当に窮屈にしなくてもいいんだって言う、のんきなお婆さんみたいになってて、そういう感じを伝えたいですね。
諸岡:ははは。必要ですね。
金井:うん。
諸岡;それこそ風穴を開けてくれる存在。
金井:そうですね、本当に開けてもらった恩返しを、自分がそろそろ次にすることなんだろうなぁと思っています。
金井真紀さん公式サイト『うずまき堂マガジン』 https://uzumakido.com/