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みらいしごと図鑑

数学と女子〜無意識のジェンダーバイアスをなくすには?

数学とジェンダーバイアス

諸岡:女性が数学を苦手って捉える人って多いじゃないですか。

中島:そうですね。

諸岡:でも、ジェンダーバイアスみたいなものでなんとなく苦手になってっちゃうんじゃないかっていう風にも言われていて。

PISA(国際学力調査)によれば、15歳児は男子の方が女子より全般的に得点が低い。
しかし、大多数の国・地域のいて好成績の生徒の場合でも数学の成績は女子の方が男子より悪かった。
こうした男女差は生徒の自信と関係している可能性が指摘されている。
生徒は、自信があるほど失敗を気にせず、数学や科学の知識を獲得する上で必要不可欠な試行錯誤をすることができる。
PISA in focus 49より

諸岡:ジェンダーバイアスみたいなものに対抗していくには、どうしたらいいのかなっていうのを・・・。

中島:そうですねぇ。正直ですね、やっぱりろんなデータ出ていて。海外は調査が進んでいて、例えば、男の人と科学的なワード、女の人と人文系、まあ、日本で言うと理系・文系みたいなことの方が結び付けやすいことが分かっていて。やっぱり、見えていない無意識バイアスがいっぱいある。
 これって無意識だから、ないと思い込んでいるわけですよね、普段はみんな。多分日本はまさにその状態で、多くの人が、特にどうしても男性になっちゃうかもしれないけど、「そんなものはない」って思ってる人の方が多いし、それはもう悪気は全くなくてそうしている。

諸岡:そうなんですよね。

中島:ですよね。でも、悪気はないけどやっぱりバイアスがあるのは間違いないというか。日本だと数学系はそれこそ、女性の博士課程の割合とかもむしろ下がるぐらいになってきて、全然上がっていなくて。他のサイエンス分野はだいぶ増えてきたんですけど、やっぱ工学と数学がすごい少ないですね。

諸岡:そうなんですか?え、今も?

中島:今もなんです。 で、賞とか、本当に名誉あるようなイベントでの登壇者とかも、ややもすると、みんなが言うのは「いなかったから」ということでほぼ男性になることがやっぱり今でも多くて。それはSTEAM教育の文脈でもそうなんですよ。私のまわりでも思わずそうなりがちな時もあって。

諸岡:あ、そうですか。

無意識バイアスを社会的課題の明るみに

中島:動かなきゃいけないのは間違いなくて。やっぱりどっかでちゃんとしたアクションを出して、ちゃんと大学とかが率先して、上の人とも一緒になって、"こういうことがあった"って具体事例も含めてですね、個人名で糾弾するんじゃなくて、アンコンシャスバイアスで、でもこういうことがあって、これは嫌になっちゃって辞めたって、やっぱり(情報が)集積してくると、社会的課題として捉えられるわけですよね。
 「あ、そういうとこで困ってたんだ!」 みたいな、「知らなかったよ」みたいなものを、やっぱりちゃんとしたところがアクションをしっかりとって、こういうことはもうなくしていこうとか、なるべく。でも、対立軸にしない方がいいんですよね。なんか、やっぱり人って攻撃されるとつらいというか。別に悪気ない人に攻撃しても、結局やっぱり解決しなかったりするし。なんかニューヨークの話が多くてあれなんですけど、まぁ、それこそ人種差別の話とか、そういうことがよく議論になるんですけど。うまい話し方だなと思ったのは、こういうことを言うことが悪いっていうよりも、こういうことを言われて、私は怖かったとか傷ついたとか悲しかったとかっていう風に、相手を責めるというよりは、まず自分の気持ちがどうなったかということをちゃんと最初に言うってことが多いんですね。
 「そんなの知らなかったよ」って言っても、まあでも事実として少なくてもそういうふうに捉えて、そういう風に感じる人がいるっていう。あとやっぱり、人じゃなく、ことを責めるというか。その人が悪いというのではなくて、やっぱりこういう言い方、こういう風にすると、いくら悪気がなくても、なんかこれ、こういうふうに捉えられるし、それによって傷つく人がいるから、そこは変えるべきだとか。最後はやっぱり、前向きなソリューションを誰かが言い出して、なんかやっぱりじゃあ、みんなで集まってこれで終わりにしようみたいなのがあったりするんですけど、そういう建設的なというか、プレイフルなディスカッション、プレイフル・クラッシュを、いかに・・・ 

諸岡:プレイフル・クラッシュ?すごい言葉。

プレイフル・クラッシュ

中島:そう、同志社女子大学の上田信行先生、私大好きな、大尊敬してる先生なんですけど、プレイフル・ラーニングとプレイフル・シンキングみたいな本とかもよく出されていて、

プレイフルとは
本気で物事に取り組んでいる時のワクワクドキドキする心理状態のこと。どんな状況であっても自分とその場にいるヒトやモノやコトを最大限に活かして新しい価値(意味)を作り出そうとする姿勢。
(上田信行 著「プレイフル・シンキング[決定版]〜働く人と場を楽しくする思考法〜」より)

中島:やっぱり新しいことを生み出そうと思ったら、ただ楽しい楽しいで、なあなあで手を繋いでやっていくってこととは違うじゃないですか。プレイフルって、時々「楽しい」で勘違いされると、「楽しくやるために結局、空気を読みあわなきゃいけない」みたいになっちゃうと全く違っていて。プレイフルの本当のフェーズは本当にプレイフルな状況とは、真剣な状況だ、と。真剣ってことは柔軟になるし、メタ思考も必要になるし、どうやったらできるかなって共創、コ・クリエーションするとか。あと、これは実現できそうだっていう予感にワクワクするとか、そういうのがいろいろ大事だと言われているんですが。でも、やっぱりその途中、真剣であれば絶対衝突は起きる。でもそれはプレイフル・クラッシュにする。

プレイフル・クラッシュ
対立を恐れず、異なる意見にもプレイフルにぶつかっていく。考え方の違いを面白がり、他者の意見を尊重しながらより新しい考えに止揚する姿勢。

中島:人を批判し合うのではなくて、ちゃんと、でも、やっぱり言わないとわからなかったり、通り過ぎられないことがあったりするときに、いかにそういうプレイフル・クラッシュにしていくか。

諸岡:本当に人間的にも成熟してないとなかなかできなさそうなことですけど、でも、それができると本当にお互いに伸びあえますよね。

中島:そうですよねぇ。

国際数学オリンピック金メダル受賞へ

諸岡:高校生の時に国際数学オリンピックで・・・

中島:はい

諸岡:金メダルを?

中島:そうですね、はい。数学オリンピックはもう本当に、50〜60年前からあって、世界中で開催されている科学オリンピックのいちばん長いのが、多分、数学オリンピックなんですけど。なんか受験とかと全然違って、早く正確に解くっていうよりは、3問で4時間半とかなので。まぁ、それでも短いっちゃあ短いんですけど。でも4時間半、一見シンプルな問いを、でもなかなか解けないとか、何か本質がなかなか見えないみたいな感じで、あーでもないこーでもないって言って考えているうちに、何かふっと霧が晴れて見れる!みたいな。なんか、そういうどちらかというと創造性を競うというのか。

諸岡:へええええ。中島さんが数学に苦手意識を持たなかったことって、例えば女子校に進まれたこととかと関係があったりします?

中島:そうですねえ。学校の影響もあるとは思うんですけど、でもね、学校って選んで行ったとしてもそこから後って、半ば運みたいなこともあるじゃないですか。合う合わない、とか。そればっかりはもう開けてみないとわからないみたいなところもあって。
 数学オリンピックがあったことも、やっぱり大きいとは思っていて。あまりできるできない軸で測らなくて済んだっていうか。テストができるからどうこうとか、そういうとこだけだったら多分、結局、疲れちゃうというか、進まなくなってたと思うんですけど。なんかそうじゃない世界があるということに割と早く気付けたというか。
 まあ、数学が好きな人とかが集まれるところがあって、最初遠いと思ったけど、やっぱり好きなものとかが近かったりすると、タイプが全く違っても、やっぱり呼応し合う仲間みたいなところができてきて。
 でも一人だったらそこまでのめり込まなかったと思うんですけど、やっぱり仲間ができたことで孤独じゃなくなったというか。で、まぁ正直、その時に女は性は少なかったんですね。だから、もっといたらより面白かったんじゃないかみたいな話は、みんなでよくしたりはします。

女性のための数学の場でピーチクパーチク

中島:やっぱりね、女性目線で作る場、コミュニティみたいなものも必要かなとは思っていて。今、数理女子っていう web サイトがあるんですけど、そこにもすごく関わっていて。そこで定期的に数理女子ワークショップというのをやっていて。男女混合でやることもあるんですけれど、女の子だけとお母さんとに来てもらって、違う部屋で全く同じことやるんですよ。
 何回か男性もいれてやった時に、まだ子供はいいんですけど、大人の方が、女性だけだとあんなにピーチクパーチクしゃべりまくってるお母さんたちが、男性が数名入った瞬間に、結構、発表とか「どうぞどうぞ」とかいって、全部その人がシャベっちゃうみたいなことになりがちで・・・「数学だし!」みたいな(苦笑)。だから、「これはまずい!」みたいな感じで、比較的、できるときは女性だけでっていうのもありじゃない?っていう。自称女性でいいことにしているので。

諸岡:ああ、いいですね。

中島:どうしても入りたい男の子が来てもいいかなっていうのはあるんですが。でも、そんなこともやっていて。やっぱり伸び伸びしてますね。小学校くらいだと、割と女の子の方がしっかりしてたりもするので、いい感じにチームバランスができたり、女性がリーダーシップとって、男の子がむしろな変なことやったりして怒られたりしながら、一緒になって作品を作るみたいなことがあって、結構面白いんですけど。中学校後半くらいからとか、やっぱりなんとなくだんだんそうやって、男の子にこれはやってもらおうとかっていうのが出始める印象が。

諸岡:競わずピーチクパーチクでやれるのは絶対いいですよね。

中島:なんか、大事なんですよねぇ。で、男性が多い中でそれやると、「あんなくだらないこと話してて」とかって言われちゃうとシュンとしちゃったりするんで。「あれ、おいしくて」とか話が飛んでっちゃったりすると、すごい言われるんだけど。
 別にでも多様性の一種なので、本当に女性がもっと楽しくなってくると、男性の中でもちょっと今、肩身が狭いと思っている男性とか、色んな人たちがもっと多分自分らしくいられるようになるんですよ。
 みんな悪気なくても、やっぱりモノトーンな価値観に持っていこうとしちゃって、それがちょっと暴力的になっちゃったり。で、やっぱりやめていっちゃったり、言うこと言えなかったりして・・・。結局、一見何も悪気ないけど、ずーっと同じような価値観で物事が進んじゃう。日本ではなかなか認識されてないんですけど、多様性の価値って。多様性は本当に大事で、あればあるほどやっぱりいろんな人がね、元気になれるし、やっぱそれって沸いてくるんですよ、みんなの中から。

諸岡:きっと、今の考え方のせいで自分自身を出し切れてない男の子たちもいっぱいいるような気がするんで。

中島:いっぱいいますよね。

諸岡:そういう人たちも女の子も、みんな自分らしくもっと自由に発想できるといいですよね。

中島:そうなんですよねぇ。

中島さち子さんプロフィール

ジャズピアニスト / 数学研究者
STEAM教育家 / メディアアーティスト
steAm, Inc. CEO / STEAM Sports Laboratory 取締役
大阪・関西万博プロデューサー(担当テーマ:いのちを高める)
内閣府 STEM Girls Ambassador

株式会社steAmウェブサイト:
https://steam21.com/